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がん経験者が語る、がんサバイバーにとっての運動の大切さとは?

現在、がんと診断されてからの5年相対生存率は6割を超えています。一方で、がんに罹患するとさまざまな体の不調が起こり、QOL(生活の質)の低下を招くケースが少なくありません。

がんやがん治療によって起こる不調の多くは、運動をすることによって軽減・改善が可能といわれています。2019年に開設したルネサンス運動支援センターでは、がん経験者(がんサバイバー)のQOL向上を目指し、これまで600名以上の方に運動相談や各種測定、運動指導を行ってきました。
がん経験者にとって、運動はどのような意味を持つのでしょうか。自身も乳がんに罹患し、現在ルネサンス運動支援センターで運動指導にあたる髙野敦子と、施設責任者の沖本大に話を聞きました。

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がんの手術後や治療中は、運動をしてもいいの?

髙野ががんに罹患したのは2017年のこと。検診で乳がんが見つかり、乳房切除と乳房再建の手術を受けました。その後、ホルモン療法を継続しながら、現在はルネサンス運動支援センターで個別運動指導に携わっています。
自身の経験から、「がんサバイバーにとって運動は非常に重要」と語る髙野。しかし、一般的には「がんになったら安静にしていたほうが良いのでは」と考える人も多いかもしれません。そもそも、がんの手術後に運動をすることに問題はないのでしょうか。

「主治医の許可が前提ですが、基本的には術後できるだけ早く運動したほうが良いです。可能であれば、がんと告知されたら手術前から運動を始めることをおすすめします。『安静にしなければ』と体を動かさないでいると、体力も筋力もどんどん低下してしまいます。適切な運動をすることによって術後の回復も早くなりますし、体の痛みや倦怠感などの軽減にも役立つんですよ。
アメリカスポーツ医学会では、がんサバイバーに対して、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチの、3つの運動を推奨しています。例えば、有酸素運動なら、ウォーキングなど中程度の運動を週150分と言われています。一口にがんといっても、種類や治療方法などは人それぞれ異なります。個々の悩みや不調に対して、具体的に何をすれば良いのか分からない方については、私たちのような専門家に相談するのが良いと考えています。」(髙野)

しかし、髙野自身も、がんに罹患した当時は運動の重要性がわからなかったといいます。

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「がんと告知されてからは病気のことで頭がいっぱいになってしまい、手術後どんな不調が起こるのか、ということにまで考えが及びませんでした。また、術後に看護師から説明があったリンパ浮腫への不安から、『無理をしない』『重い荷物を持たない』という注意点ばかりが強く頭に残ってしまいました。
思い返せば、入院中も運動について説明を受けたはずなのですが、術後は体をかばいすぎて全然動かしていなかったんです。あのとき、今のような知識があれば、もっと早く運動をしていたと思います」(髙野)

がんの手術後に起こったさまざまな体の不調

がんに罹患すると、多くの場合、病気そのものや治療の影響によってさまざまな体の不調が起こります。髙野もまた例外ではなく、術後は体の痛みや動悸などの症状が現れたそうです。中でも髙野を悩ませたのが、手術をした側の腕が思うように動かなくなってしまったことでした。

「がんを切除した左側の腕が肩より上に上がらず、さらに体の後ろにも回らないという状態でした。当時は介護施設で働いており、術後2ヵ月くらいから徐々に職場に復帰したのですが、仕事はおろか日常生活にも支障をきたすような状況で。術後の不安や痛みもあって、ほとんど左腕を動かしていなかったので、筋肉がこわばってしまったのでしょうね。そこで、がんサバイバーのための運動教室やヨガなどで、少しずつ体を動かすようにしました。
それまでは、運動に対してあまり気が進まず、やり方もよくわかっていませんでした。でも、実際に運動を始めてみると、上がらなかった腕がだんだん動くようになっていったんです。それに伴って体調も良くなり、あらためて運動の大切さを実感しました」(髙野)

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がん経験者にとっての運動のメリットとは?

がんの手術後、体の痛みや不調によって「思うように体が動かせない」「以前のように趣味が楽しめない」という方は少なくありません。しかし、体がつらいからと動かないままでいると、体力や筋力が落ち、ますます体を動かしづらくなり、やる気も起こらない…という負のスパイラルに陥ってしまいます。

髙野は、「がん経験者にとって運動はプラスの循環につながるもの」と語ります。自身の経験からも、現在ルネサンス運動支援センターで運動指導を行う中でも、運動のメリットは非常に大きいと感じているそうです。

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「運動は、がん患者さんが元の生活を取り戻すための第一歩です。適切な運動をして徐々に体が動くようになると、モチベーションも上がって『もっと続けよう』という気持ちになれます。その結果、体力がつき、さらに体が動くようになり、体の状態がどんどん良い方向へと変わっていくんです。
同時に、メンタル面の作用も大きいですね。私は周りから、『元気だね』『強いね』と言われることが多いのですが、それでもやはり術後はすごく落ち込みました。でも、運動を始めて体が動くようになって、『ああ、私、笑っている』って思ったんです。当センターの利用者様も、運動を続けるうちに皆さん表情が明るくなり、会話や笑顔も増えていく方ばかりです」

大切なのは専門家のアドバイスのもと、一人ひとりに適した運動を行うこと

乳がんの術後は、手術範囲であった乳房やリンパと、その周辺の腕の不調やトラブルを抱える方が多いです。髙野と同じように「腕が上がらない」という悩みを持つ人がいたり、手術でリンパ節を切除すると、むくみや動かしづらさといった「リンパ浮腫」が起こったりする人もいます。このリンパ浮腫を防ぐためにも、適切に体を動かすことが大切です。

また、体重増加はがんの再発リスクを高めてしまうため、運動と食事の両面から体重のコントロールをすることも欠かせません。髙野も、この点には気を付けていたといいます。

「がん経験後にどんな運動メニューをどのくらいのボリュームで行えばいいのかは、ご本人だけでは判断が難しいですよね。実は私もそうでした。運動を始めて腕は上がるようになったものの、肩をすくめて持ち上げている状態で、変な癖がついてしまっていたんです。
ルネサンス運動支援センターでチェックを受け、固まった筋肉をほぐすと同時に、姿勢を整えてからあらためて運動に取り組み、正しく腕を動かせるようになったんですよ」(髙野)

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「術後は早期に運動をしなければ」という気持ちで闇雲に体を動かしても、思うように体調が改善しないばかりか、かえって体に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあります。
髙野自身もみずからの経験を振り返り、「不調の原因を知り、効果的な運動を行うには、やはり専門家のアドバイスを受けるのが近道ではないでしょうか」と話します。

体が動くようになった今も運動を続けている

髙野は、以前のように体が動くようになった現在でも、早歩きで階段を上ったり、ルネサンスのオンラインフィットネス「Livestream」に参加したりと、運動を意識した生活を続けているそうです。

「運動をして一番良かったのは、気持ちが前向きになったことです。運動をすることで体が動くようになり、いっしょにがんばる仲間にも出会い、人生が大きく変わりました。今、こうやって元気に毎日楽しく過ごせているのも、運動のおかげだと感じています」(髙野)

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ルネサンス運動支援センターが目指す未来

大阪国際がんセンターの敷地内に位置するルネサンス運動支援センターでは、がん治療前・中・後の体の不調や困り事に対して、一人ひとりに合わせた運動プログラムを提供しています。センターの取り組みや今後について、施設責任者の沖本に聞きました。

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「がん患者さんが退院後に運動をしたいと思っても、適切な運動指導を行える人材や安心して運動できる環境はほとんどないのが現状です。当センターでは、一人ひとりの心と体に寄り添いながら、オープン以来多くのがんサバイバーの方の運動習慣づくりのお手伝いをしてきました。
2020年夏からはオンラインでの個別レッスンを始め、遠方からも多数ご参加いただいています。ルネサンスのオンラインフィットネス『Livestream』でも、乳がんサバイバーの方を対象としたヨガやエクササイズのグループレッスンを導入しました」(沖本)

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さらに現在、ルネサンス運動支援センターでは、人材育成にも注力しています。大阪国際がんセンターと連携し、「がん専門運動指導士」を養成。がんに関する知識を持ち、がん経験者のニーズに合わせて適切な運動支援ができる人材を全国に輩出しています。

「大阪国際がんセンターの先生方は医療領域のエキスパートであり、私たちは運動領域のエキスパート。両者が協力して資格認定制度を作り上げることで、がんサバイバーの皆様のQOL向上に一層貢献できると考えました。
当センターで運動指導を行うスタッフも、全員がん専門運動指導士の資格を取得しています。今後はこの取り組みをさらに広げ、がん専門運動指導士が新たながんサバイバーをサポートしていく体制づくりを進めていきたいですね」(沖本)

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同時に、がんサバイバーにとっての運動の大切さをもっと多くの方に知っていただく必要があると、沖本は強く感じています。

「『それまでできていたことができなくなった』『痛みのせいで体を動かすのが怖い』といった患者さんの不安を、運動によって安心に変えていくのが私たちの願いです。がん患者さんにとって運動は必要なんだ、できることはたくさんあるんだと広く伝えていくために、啓発活動にも積極的に取り組んでいきたいです」(沖本)

~おわりに~
ルネサンス運動支援センターでは、がんの病態や治療に関する知識を備えたがん専門運動指導士が、一人ひとりのお悩みに合わせて最適な運動プログラムを提供しています。
対面でのサポートのほか、オンラインでの個別・グループレッスンも実施。初めての方に向けた体験コースもご用意していますので、お気軽にお問い合わせください。

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