がん特化型運動支援施設
「ルネサンス運動支援センター」設立者の思い

かつて、不治の病といわれていたがんは、医療技術の進歩などにより、早期に発見して適切な治療を行えば、決して怖い病気ではなくなりました。一方で、がん患者の生活の質を維持するためのしくみづくりは、社会的な課題となっています。
そのような中、2019年6月にオープンしたのが、がん特化型運動支援施設「ルネサンス運動支援センター」です。立ち上げに携わった施設責任者の沖本大に、設立の経緯や、がん患者の方々の支援への思いを聞きました。

ルネサンス運動支援センターとは?

今や、日本国内では、男女を問わず2人に1人はがんにかかる時代です。一方、がん検診受診率の向上や医療技術の発展により、がんと診断されてからの5年相対生存率は6割を超えています。
ルネサンス運動支援センターがあるのは、特定機能病院である大阪国際がんセンターの患者交流棟内。がんと向き合いながら生きるがんサバイバーの、生活の質(QOL)の維持・向上を目的に設立されました。

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「がんという病気そのものや治療の過程において、体力や機能の低下、倦怠感など、体に不調をきたすケースが多くあります。当センターは、そのような体の不調・不具合の改善を目指し、独自の運動プログラムを提供する施設として開設しました。
運動指導にあたるスタッフは、大阪国際がんセンターのリハビリテーション科より技術指導を受け、がんに関する知識も身に付けています。がん患者さんの多くは、長い時間運動をすることが困難です。そのため、短時間でも体を機能的に動かすことができる、自走式の運動器具をそろえました」

がん患者のQOL向上のため、運動習慣づくりのサポートを

ルネサンス運動支援センターがある大阪国際がんセンターは、先進的がん治療に積極的に取り組み、年間の入院患者数が1万2,000人以上という、日本でも有数の医療機関です。運動支援センター設立の背景には、がん患者さんが退院後に抱える問題がありました。

「一般的に入院日数が短縮化していることもあり、多くのがん患者さんが、体に何らかの不調を抱えたまま退院します。入院中にリハビリを受けていても、退院後は保険適用の範囲でリハビリを受けられない方もいます。もちろん、退院時には、病院からリハビリや運動についての指導がありますが、ご自宅でひとりで運動をするのは難しいですよね。
しかし、適切に体を動かさなければ、痛みやだるさ、こわばりといった不具合が悪化し、生活の質が低下してしまいます。がん患者さんの退院後の人生を豊かなものにするために、運動面からサポートをしたいと考え、この運動支援センターを立ち上げました」

丁寧なカウンセリングとオーダーメイドの運動プログラム

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利用者の方の年齢、性別、がんの種類は人それぞれ。運動支援を行う上で最も大切なのはカウンセリングだと沖本は言います。

「カウンセリングでは病状や体の状態、治療内容をはじめ、何に困っているか、どのような状態を望んでいるかといったことをしっかりとお伺いします。その上で、お悩みに合わせた身体状態の評価を行い、最適かつ安全な運動プログラムを作成します。そのため、プランは一人ひとり異なりますし、運動指導は基本的にマンツーマン。このような流れを希望される方であれば、がん患者さん以外でもご利用は可能です。
私たちが目標とするのは、がん患者さんご自身が運動習慣を獲得すること。必要に応じてプログラムの見直しを行いながら、ゆくゆくは自立した生活を送れるようにサポートしています」

がんサバイバーにとっての運動の必要性

闘病中や手術を受けた後は、「安静にしていなければ」と考える人も多いでしょう。がんを患った人が運動をしても大丈夫なのでしょうか。また、そもそもがん患者に運動の必要はあるのでしょうか。

「がん患者さんが抱える体の悩みの多くは、筋肉や関節が衰えたり、硬くなって動きにくくなったりすることです。実は、それらのほとんどは、運動することによって改善が期待できます。例えば、乳がんの場合、手術後は医師から無理のない範囲で肩を動かすように指導を受けることがあります。そのままにしていると傷口の周りが硬くなって、皮膚と筋肉が癒着したり、関節が動きにくくなったりするからです。
でも、退院後は痛みやしびれなどが残っていて、動かすのを止めてしまう方も多くいます。そうすると、筋肉や関節が固まって動かすと痛い、痛いからますます動かさないという、悪循環に陥ってしまいます」

リハビリ=ADL(日常生活動作)、運動支援=QOL(生活の質)

「医師の指示に基づいて行われるリハビリは、ADL(日常生活動作)の向上を目的に行われるもの。生活する上で必要最低限の機能を改善することが、入院中のリハビリの役割だと思います。
対して、私たちが行う運動支援は、QOL(生活の質)の向上を目指すものです。つまり、がん患者さんが退院後にどういう生活をしていくか、どのように体を使っていきたいかを重視しているんです。
プログラムでは、約1ヵ月ごとにカウンセリングとアセスメント(評価)を行い、身体状態の評価とともに、生活状態の満足度もお伺いしています。筋力や可動域の改善と比例してQOLが向上する方もいらっしゃいますし、身体機能の改善が数値として現れなくても、生活満足度が大きく上がったケースもあります」

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身体面以外に気持ちの変化も

ルネサンス運動支援センターのプログラムの特徴のひとつが、身体状態の変化を数値化するアセスメントです。目標にどこまで近づいているかが目に見えて実感できるため、利用者の方のモチベーションアップにもつながっていると沖本は言います。

「『運動を始める前と比べて、こんなに腕が上がるようになった!』など、経過を可視化してフィードバックすることで、喜びと達成感が得られます。思うような改善が見られない場合でも、『ここを工夫してみましょう』といっしょに考えることで、ご本人も前向きに取り組んでくださいます。
何よりうれしいのは、プログラムが進むにつれて皆さんの表情がどんどん明るくなっていくこと。会話が増えたり、服装がおしゃれになったりした方もいらっしゃいました」

一人ひとりの思いに寄り添い信頼関係を築く

治療できる病気になったとはいえ、がんにかかったら、きっと誰もが不安になるはずです。利用者の方々は、実際にどのような思いを抱えて来館されるのでしょうか。

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「『がんのためにできなくなってしまったことを、またできるようになりたい』というご希望が多いです。高齢の方で、『体を動かさないままだと寝たきりになってしまうのでは』と、心配したご家族が相談に来られるケースもあります。
同じ種類のがんを患い、同じような治療を受けた方でも、倦怠感、むくみ、動きづらさなど、感じる症状は人それぞれ。がんとは直接関係のない腰痛や膝痛などの既往をお持ちの方もいます。まずはお話をしっかりと伺い、一人ひとりの不安な気持ちに寄り添うことを大切にしています」

がん特化型運動支援施設だからこそ求められる気配り

運動の実施にあたっては、がん患者さんの体力や筋力の低下を配慮し、転倒防止や可動域に十分注意する必要があると沖本は言います。さらに、カウンセリングの様子にも、がん特化型運動支援施設ならではの気配りが表れていました。

「病気のことやお困り事といったご利用者の正しい情報を知るには、いかに信頼関係を築けるかが重要です。初回のカウンセリングではなかなか自分のことを話しにくい方もいらっしゃいますし、中にはご自身の治療経験を振り返って、涙を浮かべる方もいらっしゃいます。
また、運動をするうちに『実はこんなことも悩んでいる』と、カウンセリングでは聞けなかったご要望をお話しくださる方もいます。何気ない日常会話からその方の思いをお伺いすることも多いので、コミュニケーションには非常に気を配っています」

治療前・中・後の運動の重要性を広く伝えたい

オープンから1年半が経ち、利用された方々からは「心温まる指導に元気と勇気をもらった」「大好きな山登りができるようになった」などの声が寄せられているそうです。その一方で、がん患者さんの運動に対する心理的なハードルの高さなど、解決すべき課題も見えてきました。

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「がんと診断されると、病気への不安で頭がいっぱいになってしまい、その後の運動のことまで考えられない方が大半かもしれません。私たちも無料相談会などを行う中で、がん患者さんの運動の必要性に対する認知度の低さを痛感しました。
先程もお話ししたように、がん患者さんにとって治療前・中・後の運動はとても大切です。当センターが情報発信の起点となって、医療機関とも協力しながら積極的な啓発活動を進めていきたいですね。同時に、がん患者さんが運動に取り組みやすい環境を作るためには、私たちももっと進化が必要です。ニーズに応える的確なサポートができるよう努力を続け、より多くの方々にサービスを提供したいと考えています」

~おわりに~
ルネサンス運動センターでは、対面でのサポートのほかに、2020年8月より「がん特化型オンライン個別レッスン」もスタート。施設に通うことが難しいがん患者の方でも、個別のプログラムに基づき、自宅で運動できる環境を整えました。無料相談会や施設での体験コースも実施していますので、お気軽にお問い合わせください。

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【プロフィール】

ルネサンス運動支援センター施設責任者
沖本 大
フィットネストレーナーとして運動指導を経験した後、サービスプログラムの開発、人材育成、品質管理などの部署を経験して現在に至る。