
夏を安全に楽しむために|着衣泳レッスンの必要性を水泳指導者が解説!
毎年夏になると、痛ましい水難事故のニュースが報じられます。公益財団法人 河川財団が発表している「No More 水難事故2025」※では、3歳から14歳までの年齢における不慮の事故の死因のうち、「交通事故」に次いで多いのが「屋外(海や川など)での溺水」と言われています。
お子様の水難事故の場合、服を着たまま水に転落し、適切な対処ができず溺れてしまったケースも少なくありません。そんな“もしも”のとき、あなたと大切なひとの命を守るために、知っておきたいスキルがあります。それが「着衣泳」です。
今回は、着衣泳レッスン開発・立ち上げに携わった担当者にインタビュー。そのきっかけやレッスンの内容、そして、水難事故ゼロ社会への熱い思いに迫ります。この夏を安全に楽しみ、大切な命を守るヒントを見つけてください。
着衣泳とは?合言葉は「ういてまて」

着衣泳とは、服を着たまま水に落ちてしまった際に、水に浮いたり、移動したりする動作のことです。通常の水泳とは異なり、水中で泳ぎ進むことよりも、いかに体力を消耗せずに水面に浮き続け、救助を待つかということに重点を置いています。
着衣泳における合言葉は、一般社団法人水難学会が提唱する「ういてまて」です。
服を着た状態での水の抵抗や、浮力を利用した体の使い方、身近なものを活用して浮きを確保する方法などを習得することで、もしものときに冷静な判断と行動ができるようになります。これはお子様だけでなく、大人にとっても非常に重要な知識であり、水辺での事故から大切な命を守るための実践的な備えです。
着衣泳レッスン立ち上げのきっかけ
教えてくれたヒト

- 株式会社ルネサンス
大矢秀利 - 株式会社ルネサンスに入社後、スイミングコーチとして子どもから大人までスクール、選手指導を行う。現在はスイミング事業の企画開発や、スイミングコーチの育成・品質管理に携わる。
最近の嬉しかったこと:次女が水泳選手になり、初めて50mプールの大会に出場して頑張っていたこと

- 株式会社ルネサンス
中村文 - 株式会社ルネサンスに入社後、スイミングコーチとして子どもから大人までスクール、選手指導を行う。現在はスイミング事業の企画開発や、スイミングコーチの育成・品質管理に携わる。
最近の嬉しかったこと:教え子が、スイミングコーチとしてルネサンスで働いている姿を見たこと
――まずは、おふたりが「着衣泳レッスン」を立ち上げようと考えたきっかけや背景についてお伺いできればと思います。
大矢:ルネサンスが健康づくりを主目的とした事業を幅広く展開している中で、「水泳」も大きな柱のひとつです。私どもが運営するジュニアスイミングスクールではお子様の水泳指導を行っており、多くの子どもに泳ぐことの楽しさや成長する喜びを感じてもらっています。
その一方で、「水難事故」の多くはプールではなく海や川などの野外で起きています。水着やゴーグルを身に着けた状態と、そういった備えもなく服を着たままの状態では、水に浮くことの難易度はかなり違ってくるため、適切に対処するためには学びと備えが必要なのです。
――言われてみれば、スイミングスクールに通っているお子様であっても、普段着のまま急に水に転落したら驚きますよね。
大矢:はい。服は濡れると重いですし、ゴーグルなしでは水中で目を開けられないお子様もたくさんいらっしゃいますからね。お子様の命を守るためには、着衣泳レッスンを通してもしもの場合の技術を習得することは非常に大切だと思います。
夏の時期は海水浴やキャンプが盛んになり、野外で水と接する機会が増えます。従って水難事故の悲しいニュースも増えていきます。私どもが持つ水泳指導のノウハウで、お子様やそのご家族の命を守るということに何か貢献できないかという想いから、自然と着衣泳レッスンの話が進んでいきました。
――水難事故防止に対する意識は、以前からお持ちだったのでしょうか?
中村:はい。私は長年水泳指導に携わってきましたので、水辺での事故防止には以前から強い関心を持っていました。特に、お子様の水難事故のニュースを目にするたびに、胸が痛みました。そうした中で、私の所属するチームで大矢とともに、全国規模での着衣泳レッスンに取り組む企画を立ち上げることになり、その推進に携わることとなりました。
地域向けにも広がる着衣泳レッスン

――ジュニアスクール会員様向けのレッスンに加えて、地域の方向けにも着衣泳レッスンを行っていると伺いました。
中村:はい。地域の皆様にも着衣泳の大切さを知っていただきたいという思いから、イベント形式のレッスンを各店舗で開催しています。会員様以外でもご参加いただける内容ですので、より多くの方に広がっていくことを期待しています。
――具体的には、どのような内容のレッスンを行っているのですか?
大矢:レッスンの構成は店舗によって少しずつ異なりますが、基本的には「もしものときに浮いて待つ」ことができるよう、ペットボトルを使った浮きの体験や水中歩行など、楽しみながら学べるプログラムになっています。水に慣れていない方でも取り組みやすいように工夫しています。
――年齢制限などはあるのでしょうか?
中村:いいえ。お子様から大人の方まで、どなたでもご参加いただけます。特に、普段水に触れる機会の少ない保護者の方にも体験していただくことで、万が一のときに家族全員で冷静に行動できるようになると考えています。
大矢:参加された方から「楽しく学べてとても有意義だった」「水辺に行く前に子どもと一緒に体験できて安心した」といった声をいただくことも多いですね。水辺の活動が増える夏の前に、家族で安全について考える良い機会として活用いただけたらと思います。
レッスン内容の開発について

――レッスン内容の開発についてお伺いできればと思います。合言葉の「ういてまて」は特に印象的な言葉ですね。
中村:「ういてまて」は水難事故に遭った際の対処法として、一般的な合言葉です。万が一のときのために必ず覚えて実践してほしいので、レッスンの中核に据えて、何度も口に出して覚えてもらうようにしました。まずは落ち着いて、浮いて救助を待つ。この行動が、命を守るために最も重要なのです。
――レッスンの具体的な4つのプログラム(水中歩行、ジャンプ、ペットボトル浮き、エレメンタリーバックストローク)は、どのような意図や効果を狙って構成されたのでしょうか?
大矢:普段のジュニアスイミングスクールのプログラムと同様に、お子様の年齢や成長に合わせて、段階的に挑戦・技能を習得できるように調整しました。スイミングスクールで泳げないお子様が道具を使わずに上を向いて待つ技術を習得するまでには1年以上はかかります。なので、まずは水中での服を着た状態での歩行方法から始めて、どんどんとレベルアップして習得していく。そんな楽しさと達成感を覚えていただくことで、お子様の意欲を引き出しながら知識と技術の習得を目指したいと考えています。
――お子様の意欲を引き出すためには、指導者の意識も大切ですよね?
大矢:指導者に対しては、お子様の気持ちを動かすようなコミュニケーションスキルの習得も促しています。お子様たちの命を守るという強い使命感を持ってレッスンに臨めるよう、座学と実技の両面から研修を行うことはもちろんですが、技術を教えられるようになることだけが研修のゴールではありません。お子様が積極的にレッスンに参加し、自ら考えて行動できるような声かけや、状況に応じてユーモアを交えた指導ができるよう、ロールプレイングなども取り入れています。
中村:全国のルネサンスで質の高いレッスンを提供するために、もう一工夫しています。実際のレッスン風景を撮影した動画を指導者にお渡しして、レッスンの具体的な流れをイメージしてもらいました。お子様向けにも動画を用意して、レッスンの予習を兼ねた内容を視聴してもらっています。夏のレジャーをご家族で楽しむ方も多いと思いますので、お子様だけではなく保護者様にも動画を見ていただくことで、万が一の備えがより確かなものになるはずです。
レッスンの実施・運営について

――指導者もお子様も動画を通してスマートに学べるなんて素敵ですね。ちなみに、ジュニアスイミングスクールで行われている着衣泳レッスンと地域住民様向けのイベントレッスンでは、指導内容を変えている部分はありますか?
中村:地域住民様向けのイベントレッスンは、初めてプールに入るお子様や、普段水泳をされていない方も多く参加されます。そのため、まずは水への恐怖心を和らげることを最優先に考え、水に触れる楽しさや、水に浮くことの心地よさを体験してもらうことに重点を置いています。具体的な内容としては、水中歩行やペットボトル浮きなど、比較的簡単に成功体験を積めるプログラムを中心に構成し、安全第一で、楽しく参加してもらえるような雰囲気づくりを心がけています。伝え方についても、専門用語を避け、より平易な言葉で、視覚的な要素も取り入れながら、分かりやすく説明するように工夫しています。
――着衣泳レッスン中の参加者様の反応はいかがですか? 特に印象に残っているエピソードや、やっていて良かったと感じた瞬間があれば教えてください。
大矢:参加者の皆様の反応は非常にポジティブで、私たちも毎回大きな手応えを感じています。特に印象に残っているのは、最初は水に顔をつけることすら怖がっていたお子様が、レッスンの終わりにはペットボトル一つで背浮きができるようになり、満面の笑みで「できた!」と報告してくれたときですね。その子の自信に満ちた表情を見たときは、本当にこのレッスンをやっていて良かったと心から思いました。また、保護者の方々からも、「普段着のまま水に入るという経験ができて、子どもも私も良い経験になりました」「万が一のときにどうすればいいか、具体的にイメージできました」といった感謝の言葉をいただくことが多く、着衣泳の重要性を改めて実感しています。
今後の展望とメッセージ

――この着衣泳レッスンを通じて、最終的にどのような社会を実現したい、あるいはどのような影響を与えたいとお考えでしょうか? 今後の展望についてお聞かせください。
大矢:着衣泳レッスンを通じて、最終的には水難事故ゼロ社会の実現を目指したいと考えております。水辺で子どもたちが安全に楽しく過ごせる環境を、地域社会全体で作り上げていくことに貢献したいです。具体的には、この着衣泳レッスンを全国のより多くの方々に体験していただけるよう、イベントの開催頻度を増やしたり、学校や地域団体との連携を強化したりしていきたいと考えております。また、着衣泳の技術指導だけでなく、水辺の危険箇所や、事故防止のための注意喚起など、総合的な水辺の安全教育の普及にも力を入れていきたいです。
――ありがとうございます。まだ着衣泳を体験したことがない方や、「自分は大丈夫」と思っているかもしれない方に向けて、メッセージをお願いします。
大矢:水辺の事故は本当に一瞬で起こってしまいます。少しでも多くの方に、この着衣泳レッスンを体験していただき、「ういてまて」という基本的な行動が、いざというときの命綱になることを知っていただきたいです。私どもルネサンスは、皆様の健康だけでなく、安全も守りたいという強い思いを持って、この着衣泳レッスンを提供しております。ぜひ一度、お近くのルネサンスで、着衣泳レッスンにご参加ください。皆様の安全な水辺の活動を心より願っております。
中村:まず何よりも大切なのは、「水辺には子どもだけで行かせない」という意識を大人がしっかり持つことです。川や海など、自然の水辺では特に予測できない危険が潜んでいます。お子様が水辺に行く際は、必ず大人が付き添い、現地の状況を確認するなどの事前の準備を行ってください。
また、ご家庭でも水の怖さや安全について、日常的に話し合う機会を持つことが大切です。例えば、家にある身近なものが水に浮くのか沈むのか、浴槽などを使って実験してみるのも良い学びになります。ペットボトルやサッカーボール、クーラーボックスなどを使ってみると、いざというときに「浮くもの」を判断する力にもつながるはずです。
今回のインタビューを通じて、ルネサンスは単なる水泳指導にとどまらず、「命を守る」という強い使命感を持ってプログラムを提供していることがわかりました。
夏を安全に楽しく過ごすために。そして、悲しい水難事故をなくすために。ぜひ一度、お近くのルネサンスで着衣泳レッスンを体験してみてはいかがでしょうか。
ルネサンスのジュニアスイミングスクール「安全・安心の取り組み」